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ふとしたきっかけで「家なき子」を読んでみました。

有名な児童文学ですしストーリーもなんとなく知っているので、当然読んだことがあるつもりでしたが、実は読むのは今回初めてだったようです。
   
            1878年刊(原題: Sans Famille )
            エクトル・マロ作 
            山内義雄訳 岩波少年文庫

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作者マロ(1830~1907)は、「自分の時代を生き、時代とともに歩まねばならない」を信条とし、60編にも及ぶ小説を書いた当時の流行作家です。
しかし、現在でも読み継がれているのは、10歳の娘リュシーのために書いた「家なき子」とそれから15年後に書いた「家なき娘」。いずれも子供向けに書かれた2編だけだそうです。

大道芸人になった主人公の少年レミのたどっていく道は、フランス南西部ドルドーニュ川あたりからパリまで。
19世紀末のフランスにはこんなふうにして村々を回って歩く芸人たちがいたのでしょう。
今夏旅した村々の中央部に必ずあった広場は芸人たちの活躍の場でもあったのでしょう。

「家なき子」を読んだついでに「家なき娘」も読んでみました。
小学生の頃、母の持っていた戦前の文学全集に入っていたのを読んで以来です。
今でも印象に残っているのは、少女ペリーヌが一人で森の中の狩猟小屋に住み、”サバイバル”生活をおくる場面。

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             1893年刊(原題: En Famille)
              二宮フサ訳 偕成社文庫


今回あらためて読んでみておもしろかったのは、19世紀末にフランス各地で紡績産業を中心とした産業革命があり、大規模な工場経営が導入されはじめた時代が背景になっていることでした。
一労働者が経営者へと成長し、村全体が一つの企業体となり、住民たちが労働者として働く中で、労働者の過酷な労働条件が問題になっていたのです。

わずか12,3歳の主人公ペリーヌは、劣悪な労働環境の中で保育所や労働者の宿舎の設立の推進役になっていくのです。「家なき娘」は家族探しの物語だけではなかったようです。

「家なき子」のレミは実はイギリスの貴族。家族と再会してからは貴族として生活していくのですが、ペリーヌは社会改革のために働く。「時代とともに歩んだ」作者マロの行きつたところなのでしょうか

今回読んだ偕成社文庫版の「家なき娘」の翻訳者は、二宮フサ先生。
子供向けの文庫ですが、誠実な完訳で、訳注も充実しています。
挿絵も原書のもの。その当時の雰囲気がわかります。
ちなみに岩波少年文庫版「家なき子」には、長沢節氏によるスタイリッシュな挿絵が添えられています。

二宮先生といえば、大学時代のフランス語の先生です。
マルグリット・デュラスの「Hiroshima, Mon amour」がテキストだった中級の授業。
学年末に映画「広島、わが愛」の上映会をしたことをなつかしく思い出します。

二宮先生が「家なき娘」の舞台となった集落を訪れたことが本の「あとがき」に書かれています。工場は今では廃業し、廃墟となっていたということです。
今夏旅した南西フランスにもかつては繊維産業が盛んだったところ。何箇所かの遺構を見かけました。
アルビで泊まったホテルももともとは19世紀の水力を使った工場でした。

子どもの頃読んだ「家なき娘」は少女ペリーヌの物語でしたが、年を経て読むとまた違ったことが見えるものです。
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by small-small-world | 2010-10-27 10:55 | ★本・映画・演劇 | Comments(0)